机の上に置かれた和綴じの図鑑。朱の印がひとつ

紙の図鑑、その中身

冒険の書

最初の参加の日に、一冊だけ手渡される。
朱印は里で捺し、続きは家で読み返す。
電池はいらない。紙だ。

ひらく

とびらの頁

この図鑑の最初の頁には、
質問がひとつだけ印刷されている。

いま、お金でしか
手に入らないものは?

答えは鉛筆で書く。一年後、書き直したくなるからだ。

十二の仕事の頁

頁は、体験でひらく。

白い頁は、まだ行っていない場所。ぜんぶ埋める必要はない。気になる頁からでいい。

  • 火をおこす
  • 水をひく
  • ごはんをつくる
  • すみかをなおす
  • たがやす
  • かう
  • とる
  • きる・やく
  • かもす
  • そめる・まとう
  • つくろう
  • まつる

深さは三段 ── ふれた → ひとめぐり → てになじむ。測るのは上手さではなく、営みのどこまでに立ち会ったか。

記入の見本 ── 醸すの頁

年表の最終行は、いつも空欄だ。

各頁の年表は、人類がその仕事と歩んできた時間。最後の一行に、あなたの日付が入る。

醸すの頁
── 発酵、八千年の年表

  • 紀元前六〇〇〇年ごろメソポタミアに、発酵の痕跡
  • 平安時代味噌の原型が、寺でつくられる
  • 昭和三十年ごろ家で仕込むのが、まだ普通だった
  • 二〇二七年一月あなたの番。

スーパーの味噌売り場で、原材料の欄をはじめて読んだ。
大豆と、麹と、塩。それだけだった。

── あなたの一行。その日いちばん「見え方が変わったこと」を、一行だけ書く。上手い文章はいらない。

おもいでの頁

貼って、書いて、あなたの一冊になる。

各頁のうしろ半分は、自由帳。案内所で借りられるインスタントカメラの一枚を貼り、その日感じたことを、好きなだけ書く。

梅林越しの富士山の写真が、テープで貼られている
二月一〇日、梅の斜面。
「山ぜんぶが香る」は、ほんとうだった。
朝の漁港の写真が、少し傾いて貼られている
九月五日、夜明けの市場。
競りの声は、まだ聞き取れない。

帰りの電車で気づいたこと。
頭より先に、手が覚えている。
次は味噌。樽を置く場所を、考えておくこと。

── おもいでの頁(見本)。書き方に決まりはない。貼っても、描いても、押し花でもいい。

奥の頁

図鑑が育つと、呼び名が変わる。

  1. まちの人まだ図鑑は白い
  2. 旅人朱印が三つ
  3. 里の常連顔を覚えられる
  4. 頼れる手段取りを任される
  5. 新百姓初めての者を迎える側に

やめても、図鑑は手元に残る。ただし朱印の続きを捺せるのは、会員だけ。

白い頁を、
埋めに行くか。

里の地図をひらく